【クラウドファンディング】生きづらさを抱える若者の”働く場所”を全国へ|ワンぽてぃとの挑戦

2025年2月14日

【クラウドファンディング】生きづらさを抱える若者の"働く場所"を全国へ|ワンぽてぃとの挑戦

【クラウドファンディング】生きづらさを抱える若者の"働く場所"を全国へ|ワンぽてぃとの挑戦

はじめに

2022年に内閣府が実施した「こども・若者の意識と生活に関する調査」では、ひきこもり状態にある方の人数は約146万人とされています。一方、ひきこもり・生きづらさの当事者/経験者1,686人を対象に行われた調査では、6割近くの方が受け入れ先さえあれば働きたいという回答結果が出ています(『ひきこもり白書2021』)。つまり、生きづらさを感じつつ、働きたいと思っていながらも、様々な理由で、ひきこもり状態が続いてしまっている現状が見て取れます。

私たちは、ひきこもり状態になることは特別なことではなく、誰でもなりうることという考えのもと、医師の診断書等がなくても、その方たちの将来に繋げていくことができる、「寛容さ」や「多様性」のある働き方を提供してきました。

そのようななか、お店をはじめて2年半が経過しました。これまで、ワンぽてぃとに来て、卒業していった人たちは23名にものぼります。一方で、15分から賃金を支給できるのは二人までが経営上の限界。受け入れを待ってもらっている若者もいるのが現状です。これまでに、同じような取り組みをしたいと同じ春日井市内はもちろん、全国各地から、また海を越えて個人、団体の方々が視察等に。しかし、物価高の煽りも重なり、実際に事業をはじめたり、若者を受け入れるのはそう簡単なことではないという声も少なくありません。当初、私たちは、目の前の若者に社会に出るための一歩の機会を創りながらも、ワンぽてぃとの取り組み、仕組みを全国に広げたいとの思いで突き進んできました。全国に広げたいという気持ちは今も変わらないのですが、一方で、ワンぽてぃとで働きたい、社会に出る一歩のきっかけが欲しいと願う若者を今以上に受け入れたいという気持ちも同時に増すばかりなのです。

そこで今回、ワンぽてぃと自体の事業の拡大を通して、より多くの若者を受け入れたいと思い、三度目のクラウドファンディングにチャレンジすることにしました。以下、そんな私たちの思いをご覧いただけると幸いです。

なぜ"超フレックスタイム制"で"15分"なのか?

ひきこもり状態にある人や不登校の人たちが、ちょっと一歩を踏み出してみようかなと思ったときに、気楽に、そして気負わずに来てもらうにはどうしたらいいかを考えたことがきっかけでした。

実は、私自身、不登校の娘を持つ母親でした。娘の気持ちを考えたときに、仕事に行きたいときに行けて、帰りたいときは遠慮なく帰られる、そんな自由に出社、退社ができる環境であれば働きやすいのではないか、と思い立ちました。そして、「15分から働けるというのはどう?」と娘に尋ねると、「15分だったらがんばれる気がする」との答えがかえってきたのです。

私たちのお店では、15分から最低賃金のお給料をお支払いするようにしています。働いてお給料をもらうのは、社会のなかでは当たり前のこと。当事者と言われる若者たちの多くは自己肯定感が低下しているなか、お給料を支払うことは、目に見える形でその人自身を認めることになります。

こうして、私たちは、"15分"から働ける"超フレックスタイム制"のカフェレストランとしてスタートしました。

受賞実績

一昨年は、WORK DESIGN AWARD 2023で、すかいらーくの配膳ロボットをおさえ、グランプリを受賞しました。日本の「働きやすさ」を前に進める、働き方をアップデートした取り組みをビジネスパーソン1万人により選出されたのです。それだけ、この取り組みは、時代のニーズを捉えているのだと思います。

2年半の実績と成果

ワンぽてぃとが本格オープンしたのが、2022年5月。この2年半の間、ワンぽてぃとには、全国から100人以上の働きたくても一歩を踏み出せない若者や保護者の方が訪れました。

若者の中には、途中で来れなくなった人もいたり、来れたり来れなかったりを繰り返す人もいますが、一人ひとりがワンぽてぃとにて社会との新たな接点を持つきっかけを掴んでくれています。実際に、ワンぽてぃとで15分から働く経験を通して進学したり、アルバイトを始めたりと、ワンぽてぃとを卒業していった人たちは、2024年12月時点で23名にも上ります。

様々な取り組み

①ボードゲーム

月に1回開催。年齢・性別・背景を問わず、見るだけ、居るだけ、話すだけ、オリバー(看板犬)と遊ぶだけ、どなたでもご参加OK。主催者の方は、元生きづらさを抱えた方。ひきこもり経験があり、ワンぽてぃとの取り組みに賛同。当事者の方が、「気軽に参加できるコミュニティの場を作れれば。」とボランティアで運営していただいております。

当事者の方だけでなく、年齢も10代から80代まで幅広く様々な方々が訪れ楽しんでいます。ボードゲームの性質上、初めて会った方同士でも、自然なコミュニケーションが生まれ、店内は、童心に戻った参加者たちで、とても盛り上がっています。参加者でなければ、どの方が当事者なのか分からないかもしれません。初めて会った方と自然なコミュニケーションをとる。当事者の方にとっては、とても難しいことですが、ここでは、そんな心配をする必要はありません。

②ワン’s マルシェ

年に2回開催。ひきこもり当事者の方が、自分の得意なものを作り、それを商品にして、マルシェで販売しています。例えば、以前、有名なケーキ屋で働いていた当事者の方は、自分で作ったスイーツを販売。イラストが得意な方、アクセサリー作りが得意な方など、それぞれの個性を生かした商品を販売していくことで、自信を取り戻していく方もみえます。

当事者の方は、人が多く集まる場所を苦手とする方が多いのですが、それでも、ワン’sマルシェに、足を運び手伝ってくれる。自身の個性、能力を生かしながら、普段できない経験を積んでいただいております。

③とまり木ママの会

月に1回開催。不登校ママの会が、ママたちにとり良い影響を与えていると判断。現在、15分勤務を待ってもらっている当事者の親御様に声をかけ集まってもらいました。

子どもが学校に通っている間は、学校やママ友など相談できる環境があります。しかし、卒業してしまいひきこもってしまった子どもを抱える親御様は、つながりが全くありません。問題を独りで抱え、うつ病になってしまう方もいます。

とまり木ママの会を開くことで、同じ境遇の方とつながり、ざっくばらんに会話する。そして、自分たちでカウンセリングしていく。

会社を休んででも来たいと声をかけてくれる親御様もいます。今以上に、同じような境遇の親御様たちを集め、心の救いとなる場を提供していきたいです。

④HANASOU-ZE

月1回開催。ワンぽてぃとは、「いつ来ても良いですよ。」とお伝えしていますので、若者同士が一緒にお仕事をする機会がほとんどありません。そんな子たちを繋ぎたいと思いはじめました。

HANASOU-ZEのキャッチコピーは、みんなで創るカウンセリング。みんなで「話す」、いやな気持ちを「離す」、苦しい感情を「放す」ことを目的として進めていきます。

ひきこもり当事者が、声をかけて来てくれるだけでも驚くべきこと。はじめは、どの方も少し緊張した面持ちでしたが、最後は、みんな笑顔で帰っていきます。

⑤キャリアチェンジ犬の会・わちゃわちゃの会

月1回開催。ワンぽてぃとには、介助犬のキャリアチェンジ犬の看板犬オリバーがいます。オリバーは、当事者の方たちにも人気です。人には心を開かない当事者の方も、オリバーには心を開く。そこに注目しはじめました。

この会では、閉店後、介助犬のキャリアチェンジ犬に集まってもらいます。普段、見ることができない大型犬の集まり。楽しい雰囲気が広がります。

たまたま、ご来店された当事者の方と親御様。「今日は、ワンちゃんの会があるのですがどうですか?」と声をかけました。実は、声を掛けたらと、私に言ってくれたのも、苦しみを抱える当事者の方。「自分が、あの子の年齢で、このイベントを見ていたら違う人生があったかもしれないから」と参加を進めてくれました。

ご来店されたときは、無表情だった当事者の方。キャリアチェンジ犬の会がはじまったときには、笑顔が溢れていました。

色々な仕事がある。ワンちゃんが好きなら、介助犬の訓練士、盲導犬の訓練士、警察犬の訓練士。獣医だって、トリマーだって。生きる道は、ひとつじゃない。それを伝えていくために、これからもキャリアチェンジ犬の会を開催していきます。

⑥クリスマスパーティー

イベントのたびに、ワンぽてぃとには、「月1ボラさん」が集まり、当事者の方とコミュニケーションを取りながら盛り上げてくれています。2024年は、クリスマスの飾り付けのなかで、ビンゴゲーム大会。また、ワンぽてぃとの取り組みに賛同している方による「チャリティーコンサート」を実施。また、絵が得意な当事者の方が描いた絵を見ながら味わえる「クリスマスケーキ」の販売など、ワンぽてぃとでしかできないカタチで、社会参加の機会をつくっています。

その他にも、フードドライブの取り組みや、シンポジウムの開催、秋にはハロウィーン仮装パーティや、年末にはクリスマス会を開くなど、ここには書ききれないほどの取り組みを展開してきました。

これらの取り組みに共通するのは、若者や親御さんからの「声」でした。ひとりひとりの「声」に耳を傾け、形にすることが、「声」をあげられなかった他の人たちのきっかけや居場所になっているのです。そして形になった一つひとつのプログラムが、働くこと以外にも、ワンぽてぃとに来る、またワンぽてぃとに来たい、ワンぽてぃとに居ていいんだと思えるしかけやきっかけ、動機づけになっていて、気づけばワンぽてぃとが安心していられる居場所になっていたのです。

ワンぽてぃとに欠かせなかったAさんの存在

先ほど取り上げたように、ワンぽてぃとでは、通常のカフェ運営以外にもさまざまな取り組みを展開してきました。その一つひとつが、ひきこもり状態にあった若者にとって、ワンぽてぃとに居てもいい、また来たいという動機づけになっていました。

しかしながら、これらの取り組みを行うには、人手が必要です。実は、この取り組みの多くを考案し、企画し、実践してきてくださったのは、ご自身ひきこもり状態を経験したことのあるAさんでした。ここで少し、Aさんのことについてご紹介させてください。

2023年の春、一人の青年(Aさん)が、お客様としてワンぽてぃとにやってきました。その方は、レジで「ひきこもりの方は、まだ、受け入れていますか?」と声をかけてくれました。私は、「この方がひきこもっているの?」と思いましたが、すでに手一杯だったこともあり、「ボランティアなら、いつでも来ていいよ。」と答えました。ちょうどそのとき、オーダーの入ったパンにジャムを塗ろうと瓶の蓋を開けようとしたのですが開けることができず、やむを得ず、Aさんにお願いをして開けてもらったのです。そのとき、彼は「いいですよ」と快く笑顔で引き受けて下さいました。その受け答え、明るい笑顔はとても当事者の方には見えませんでした。

次の日から、Aさんは、毎日お手伝いに来てくれました。早いときは、お店の開店前から、来ていました。遅い日は、終電まで。様々な企画運営、お店の仕込みなどが重なり、多忙を極めた時期には、泊まり込みで手伝ってくれたこともありました。

本人に当時のことを聞くと、「まずは、リハビリで3日間働いてみようと思ったけど、小栗さんが大変そうだったから、そのまま続けようと思った」とおっしゃいました。「大変そうな人がいたら助けてあげるのは当たり前でしょう?」と。私は、夜中まで仕込みをして、その後、当事者の方や親御様から電話やメールを返信し、ほとんど寝る時間がない日も続いていたため、そう感じたのかもしれません。また、その当時は、増え続ける当事者の方を待たせているという罪悪感もあり、お店をたたむことも考えていました。当事者の方たちを期待させて、がっかりさせてしまうことが、私にはとても辛かったのです。しかし、彼は、このお店をなくしてはならないと、その後、カフェ運営だけではなく、さまざまな取り組みを考案し、形にしてきてくれたのです。

ちなみに、Aさんに、なぜワンぽてぃとをなくしてはならないと思ったのか聞いてみました。

「ここはいい意味で、他の居場所と違う。」

まず、ここは、支援する側、される側が分からない。そして、実際にスタッフと同じお仕事をさせてくれる。スタッフが当事者の方に教えることもあるけれど、逆にスタッフが当事者の方に教えて貰うこともある。それが、普通の社会であるし、並走のカタチであると思う。さらに、いつ来ても良い(他の居場所は、月に数回など日時が決められている)というのは、当事者の方にとって必要な仕組みなんだと。

Aさんは、ワンぽてぃとに来る以前にも、いろいろなひきこもりサポート団体へ行かれていたそうです。

少し長くなりましたが、今のワンぽてぃとがあるのはAさんの存在が何より大きかったこと言うまでもありません。Aさん自身、社会人生活で培った経験もある一方で、豊かな感性と生きづらさを抱えてきた心をお持ちだからこそできる繊細な目線、配慮があり、カフェ運営にとどまらず、いくつもの取り組みを企画し、形にしてきてくださったのです。

次なる"一歩"へ

言うまでもなく、これまでの2年半は、決して順風満帆なことばかりではありませんでした。なにより、カフェそのものの経営の厳しさがありました。ご存知のとおり、材料費、燃料費の物価高の煽りは、私たちのような小規模な個人事業者の存在を脅かします。この間も、一部商品の値上げや、営業時間の変更など、経営面での工夫も凝らしながら歩みを進めてきました。そのようななか、ワンぽてぃとで"15分"の就労で賃金を一定期間、同時にお支払いできるのは2名が限界です。当事者の方の中には、長い間ひきこもり状態で過ごし、ワンぽてぃとの存在を知り、「ここでならやっていけるかもしれない」と勇気を出し一歩を踏み出して当店を訪れたという方も少なくありません。中には、賃金をお支払いできない間はボランティアスタッフとして働いていただいたり、登録だけしてお待ちしていただいている方もいる状況です。今の地域社会には、まだまだ受け皿が足りていないことは、眼に見えて明らかなのです。

一方で、カフェ運営以外に取り組んできたいくつものプログラムが、翻ってカフェ運営を支えてきてくれた面もありました。そして、その一つひとつがあるからこそ、当事者と言われる人たちにとって欠かせない居場所になっていることにも気づかされてきました。なにより、これからもAさんが考えるアイデアをさらに形にしていきたい、Aさんに刺激され、私もやってみたいと言ってくれている他の当事者の方の思いも形にしていきたい、そのような考えは日々強くなっていきました。

そこで考えた次の一歩は、これまで単発で依頼のあったお弁当事業の拡大です。日々のカフェ運営を継続しながら、安定的な収入確保を図るために、月で500食のお弁当販売を目指します。そのための営業活動にも本格的に力を入れていきます。そうすることで、仕事の幅も広がることから、若者たちの15分就労の機会も増やしていきたいです。これまで、お給料を支払うのは2人までが限界でしたが、収入増、仕事の増を図ることで4人まで支払える資金繰りを目指します。

Posted by wanpoteito